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A hotspring in the middle of nowhere
わたしの好きな英語のイディオムに、the middle of nowhereというのがある。なんのヘンテツもないヘンピなところ、という意味である。わたしのイメージでは、トルネード・チェイサーが竜巻を追ってめちゃくちゃに走り回るオクラホマのどこかとか、ケビン・コスナーが殺人犯役で逃げ回ったテキサスのどこかとかそんな感じだ。単に田舎を表現する言葉として使われるのかもしれないけれど、なんとなくもっと不思議な語感を持っている気がする。地球上のどこでもない場所の真ん中で、何かが待っていそうな感じ。 日本の中で一番、このthe middle of nowhereにぴったりだとわたしが思うところ、それがこの間行った十勝だ。特に鹿追(しかおい)、士幌(しほろ)、上士幌(かみしほろ)あたりの、大平原に広がる農村地帯。直線道路が碁盤目状に交差し、どの道も似たような風景なので、看板なしでは車で走れない。 そんな日本のthe middle of nowhereのさらに真ん中から、温泉が湧いている。「ナイタイ高原温泉亀の子荘」という。上士幌町に入ると、主だった交差点という交差点に、亀の絵の看板がある。亀の絵と言っても全身ではなく、甲羅の一部と足一本だけ。画面から半分逃げ出しかかっている亀の後ろ足に導かれて、山の中に入っていく。われわれが行ったのは夜だったので、周囲は真っ暗闇。何度も曲がっているうちに方向感覚もなくなる。亀に見放されたら、とたんに迷子になってしまうだろう。 最後の最後に、親子亀の看板が現れると、温泉はもうすぐ。暗闇の中に宿の明かりが見えてきた。入ってみると、内風呂などは十数年前に来たときとあまり変わっておらず、お世辞にも小ぎれいとは言えない。シャワーもほかの人が使うとぬるくなる。しかし露天風呂はいい。お湯に浸かりながらものすごい数の星が見えるのだ。なにしろ周りに邪魔になる明かりを発するものは何もない。空気もきれい。目隠しの木立にさえぎられて、視界は広くはないけれど、頭の上に開けた円い空に、くっきりした天の川と夏の大三角形が見えた。あと少し星座が巡れば、お湯の中からアンドロメダ大星雲だって肉眼で見えるだろう。 帰り道には亀の看板はないので、来た道を覚えておくことをお忘れなく。
by flyingshack
| 2005-09-30 17:20
| 北海道の旅
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